死にそびれた
28歳になった。
そのことを僕に告げてからも、時計はまだ動いている。
それを僕は見ることができるし、
カチカチとした音も聞くことができる。
不思議なことに、僕は28歳になった。
自分は12歳のころから、27歳で死ぬと思ってたから。
27クラブというものがある。
メンバーは、カート・コバーン、ジム・モリソン、ジミ・ヘンドリックス、ジャン・バスキア、沢村栄治、etc...
彼ら、名だたるアーティストに共通しているのは、
27歳で死んだということだ。
12歳の夏休み、
目を覚ました僕は天井を見上げながら、
世の中は狂っているということに気が付いた。
だから、何かを変えなきゃ、このままだと自分も向こう側へ押し流されてしまう。
そう思った僕は朝食もそこそこに部屋を飛び出した。
しかし家から20mと離れないうちに、僕は途方に暮れた。
いったい、何を変えればいいのだろうか。
僕は今、何を変えられるのだろうか。
例えば、見てくれを変えるのはどうだろうか。
眼帯を付けてみるとか。
幸いにも珍しいビールの王冠が家にたくさんある。
小学校2年生から集めていたものだ。
あれに紐をつけて右目を隠すんだ。
しかし、王冠は目を隠すには小さく感じたし、
たぶん、端んトコ痛い。
では犯罪心理学を学ぶのはどうだろうか。
シリアルキラーをプロファイリングして見つけ出すんだ。
しかしここは平和な日本。
活躍の機会なんて限られていたし、
あったとしても、SCHOOLも書けない二重病人相手に自分が努力するなんて。
逆に自分がテッド・バンディになるという手もあるが、
そもそも僕は血が嫌いだ。
見るだけで悪心がする。
現場で吐いて証拠なぞ残したら、末代までの恥だ。
そんなことをなんとはなしに考えていたが、
ふと気づくと近所のTsutayaに着いていた。
「”千のプラトー”の続きでも読むか・・・」
僕は思ったが、その意思とは無関係に足は店の奥へと向かった。
立ち止まると、そこは洋楽CDコーナーだった。
今まで一度も入ったことのない、ちょっと悪い大人たちのためのエッセンシャル。
いくばくかの背徳感を胸に立ち尽くす僕の目に、一枚のアルバムジャケットが飛び込んできた。
Limp Bizkitの”Significant Other”
- アーティスト: Limp Bizkit
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- メディア: CD
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直感的に”これじゃない”と思った僕は、
近くのポップでプッシュされていたNevermindを手に取りレジへ向かった。
家に帰って、
借りてきたCDをコンポに入れて、
僕の世界は変わった。
ノイズ混じりに叫ぶその声が、僕の生まれて初めての友達だった。
そしてその後も友達は増え、中には仲良くなりようもないヤツもいたけど、多くの友達に囲まれて僕は辛い青春を過ごした。
僕たちは親友だった。
辛いときに、彼らは僕よりもっと辛い目にあって叫んでくれた。
嬉しいときは、特になかった。
彼らもちっとも嬉しそうじゃなかった。
だから僕たちは親友だった。
そのうちに、その友人たちの多くが27歳で死んでいることを知った。
僕たちはそういう運命なんだと。
だから、あまりに当然に、自分も27歳で死ぬんだと思った。
しかし残り1時間を切っても、僕の鼓動は依然ブラストビートを刻んでいた。
あっけなく、僕は28歳になった。
そしてなんとなく、置いて行かれたような寂しさを感じた。
僕たちは親友じゃなかったのだろうか。
ある日、そんな僕の寂寥を感じ取ってか、ミュージシャン仲間のベトナム人が「どうしたんだ?」と声を掛けてきた。
別に話すようなことじゃないけど、と前置きして、僕は親友たちに置いてきぼりにされたことを伝えた。
すると彼は笑いながら
「当たり前じゃないか!お前に資格はなかったんだ!」
と言った。
意味がわからず尋ねると、彼は答えた。
ベトナムでは年齢の数え方が違うんだ。
日本で言うところの数え年ってやつなんだよ。
俺達は生まれたときに1歳で、テト(旧正月)ごとに年を取る。
お前がベトナムに来て、酔っぱらって俺の頭にフォーをぶちまけた2年前、お前はもう28歳だったんだよ!
お前はこの町に来たとき、すでに資格はなかったんだ。
何を今更!死ねるわけないだろ!
彼はそういって豪快に笑い、ときどき”お寿司―お寿司―”と言って、また笑った。
きっと”遅し”と言いたかったんだと思う。
僕はその優しさにただ微笑んだ。
そこには、僕は置いて行かれたんじゃないという安堵の気持ちも含まれていたかもしれない。
今はもう、生まれ変わったみたいだ。
太陽がいっぱいだ。
せっかく15年前の予定表より向こうの世界にいるんだ。
これから、天寿を全うするその日まで、精一杯、生きていたい。
不☆撓☆不☆屈
まぁ全部ウソですけど、この話。
あ、28になったのは本当です!
おめでとう、私!!
ベトナム数え年だともうすぐ30歳!
ほげぇ!